
この作品、2012年の1月に書いた作品です。
読み返してみると、懐かしい。
懐かしいです。
未熟なところもありますが、ご興味がある方は
読んであげてください。
『 娘 と 父 』 2012.1.05 作:沖野周平
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父(高田雄大):50代男性 [お]
娘(高田葵):20代女性 [む]
バーのマスター:40代男性 [マ]
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シーン1:バー
se:階段を登る音
(革靴のこつこつこつという)
バーのドアがあく音
バーのマスター(以下マ):いらっしゃいませ。
男(以下お):ああ~、まだまだ、寒いね。
マ:そうでございますね。
お:いつもの、・・・といっても、ちょっと来てなかったね。
マ:いえ、いつもので、大丈夫でございます。
かしこまりました(微笑みながら)。
se:酒などを準備している音。
ジャズが流れ始める。
マ:おかわりありませんでしたか?・・・少し、お痩せに、なられたのでは?
お:そうね。ちょっと、中年太りだったんで、ダイエットした
んだよ。結構痩せたでしょ?
マ:ええ。そうですね。
お:会社がさあ、結構いま儲かっててね。利益率なんか創立以来の数字になっちゃってさ。
大変よ。
マ:そうなんですか。
お:業種によって、今回の地震影響がさ。プラス側とマイナス側のどっち側の影響かって
のが、顕著に出ちゃってるよね。
うちはラッキーなことに、プラス側って感じなんだね。お陰様で。
マ:高田様は、建設業でらっしゃいまいしたよね。
お:うん。
マ:痛んだ建物の建て直しとか、いろいろ需要があるでしょうね。
お:そうね。津波でダメになった、工場とか倉庫の建屋の修復とか。いまはそっちの
方が多いかな。
マ:そうですか。
お:ぼくが、そっちの方を担当してるから、多く感じるのかもしれないけどさ。
結構、多いよ。沿岸部に工場ってこんなにあったんだな、って思ったよ。
マ:そうなんですか。
お:船を使って、その工場で作る原料なんかを搬入したり、あと輸出したりするんで、
沿岸部に工場があると、便利なんだね。
マ:なるほど、ですね。
(ちょっとした、間)
お:マスターんとこは、どうなの?最近。
マ:うちですか?うちは、まあ、ぼちぼちって感じですかねえ。
お:ぼちぼちか。まあ、まあ、いいよね。『からっきし』って訳じゃないんだから。
マ:ええ。そうです。あんな地震があっても、こうして常連のお客様に来ていただける
んですから。
あ、すみません。お伝えするのが遅くなってしまいましたが、あちらに高田様をお待ちのお客様が
来店されて、おります。
お:ん?ぼくに?ほんとに?
マ:ええ。あちらの窓際の席にて、お待ちです。
お:ん?誰よ。
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シーン2:娘
娘(以下む):(手を振りながら)パパ。
↑遠くから、呼びかける口調で。
お:お、お前か。
む:(se歩いて来る音)
ふふ~ん。誰だと思った?馴染みの店のママが急に訪ねてきたのかなとか、
思った?
お:なに言ってんだよ。馴染みの店のママなんて、こんなところに来ないよ。
む:ふ~ん。・・・・でもやっぱり馴染みの店は持ってるんだね。パパも。
否定しないってことは。
お:そりゃあるだろ、おれだって、いろんなつき合いがあるんだよ。
会社の中にしても、取引先とかにしても。
む:まあ、そうね。ふーん。
お:と、いうか、なんでお前、この店のことわかったんだ?
む:ふふ~。ある人から、聞いたのよ。パパは、いつも、仕事が一区切りすると、
この、欅並木が見えるバーに来るんだって。
お:(舌うち)誰だ、勝手に個人情報を漏らしてるやつは。・・・本山か?いや
あいつじゃ、ないな・・・・。遠藤あたりかな。あいつ、口軽いから。
む:ふふ~。内緒。
お:なにか、飲んでるのか?
む:あ、うん。
お:頼めよ。
あ、マスター。
マ:はい。
む:じゃあ、さっきの。もう一杯、お願いします。
(隣の席に座る)
マ:かしこまりました。
お:何時頃、来たんだ?ここに?
む:え?30分くらい、前かな。
お:仕事、ちゃんと終わらせてきたのか?
む:だいじょぶよ、終わらせてきました。
総務の仕事なんて、ちょちょいのちょいよ。
お:なにがちょちょいのちょいだ。
む:パパが同じ会社にいるんだから、迷惑かけるようなことは
しないわよ。『あいつは全然仕事しない』とか。『あいつは
勤務態度が悪い』とか。そういうこと、人から言われない様には、
してますから。
お:そうか。
む:所詮あいつは、『縁故入社』だから、な~んて、言われないように。
お:意外と気にしてるみたいだな。
・・・まあ、そんなに気を使う事はないよ。最低限のことをまずクリアすれば。
(沈黙⇒ se:ジャズが聴きどころを迎える。)
む:・・・・わたしねえ。
お:うん?
む:パパのこと。誤解してた。
お:(笑)なんだよ、急に。
む:うん。なんか、こういうところじゃないと、こういうこと。
言えなくて。
照れくさいでしょ?こういう、改まったこと、言うのって。
お:改まったことは、こういうところでも、照れくさいよ。
ねえ、マスター?
マ:(笑)。ふふ、そうですね、改まった話は、結婚式の挨拶の時だけに
してください、な~んてね。
お:(笑)。流石、娘を持った父親の言うことは、違う。
マ:(笑)。
む:マスターの娘さんって、なんか、『すごい美人』で、『おしゃれ』で、
『頭よさそう』ですよね。
マ:(笑)。いえいえ、そんなそんな。・・・・出来の悪い娘でして。
誰に似たのかなっていつも思ってます。・・・ぼくなのかもしれませんけど、ね(笑)。
む:娘さん、このバーに来たりしないんですか?
ま:一度、急に来たんで、追い返しましたよ。来ないでくれよって言って。
む:へ~。そうなんですか。。。。やっぱり自分の職場に、家族が来るってのは、
嫌なものですか?
ま:え、あ、いや、まあ、それは、人ぞれぞれだと思います。
高田様のように大きい会社であれば、家族の方が入られても、別の場所で
仕事をされる訳ですから。あまり干渉というか、接触というか、そういうものは
ないんでしょうから。
うちの場合は、この店だけですから(笑)。
ま:いやいや、結構、すれ違うよな。廊下とかで。
む:そうよね。食堂で会うの、結構嫌がってるんじゃないかなって気がしてた。パパ。
お:ま、別に嫌ってほどじゃないけど。
なんか、なあ。娘と食堂で一緒ってのも、なあ。
む:別にいいじゃない。一緒にランチしましょうよ。
お:い、一緒にランチは、ちょっとあれだよ。ねえ、マスター?
マ:(笑)。いや、いいんじゃ、ありません?親子で、ランチ(裏切りの笑)。
お:裏切られたな(笑)。
む:(笑)。
・・・・わたし、小さい頃から、パパの、家にいるパパのこと、見てて、なんでこんなに
疲れちゃってるのかな とか思ってたんだよね。。。。
お:・・・そんなに疲れてたか?
む:なに言ってるのよ、もう明日にでも死にそうなくらいだったじゃない。
酒は毎日呑んだくれるし、お酒飲むと、私と話したこと、全然覚えてないし。
お:(笑)。ま、もう、水に流してくれよ。昔の話は。
む:子どもは親の背中を見て育つっていうけど、わたしはお父さんの『呑んだくれた姿』を
見て育ったのよ。
お:(苦笑)それはちょっと、大げさじゃないか?
む:大げさじゃないわよ。だからわたし、お酒嫌いになったんだもん。
あんなに人をだらしなくするもの、大っ嫌いっ!!って思って。
お:・・・ま、反面教師ってことで、理解してくれないかな。
む:それに、寝たら寝たで今度は、すごいいびきでしょ?
寝言もすごいし。『ああああああああああ~~!!!!!!!!!』とか言っちゃって、
ビルの屋上から落ちてる夢でも見てるのかと思うわよ。
ねえ、そういえばあの『ああああああ~~!!!』の時、どんな夢、見てたの?
お:ビンゴだよ。ビルから落ちてる夢です。正解。
む:なんで落ちちゃうのよ(失笑)。
お:背中を押されるんだよ。ドンって。
む:誰に?
お:会社の同僚とか、学生時代の先生とか、先輩とか。
・・・・お母さんとか。
む:お、かあ、さん。ね。
お:お母さんが、一番、あれだったな。
む:あれって?
お:唐突というかさ。普通に話をしててさ。
会話が途切れたと思ったら、急にどん!!って背中を押すんだよ。
そりゃ、『ああああああ~!!!!!』って叫んじゃうよ。びっくりするだろ、急に
背中押されてビルから落ちたら。
む:(笑)。そういうこと。
お:ああ。
む:でも、何回もそんな夢みたら、大体予想ってつかないの?
そろそろ、落とされるか。とか?
お:いやあ、これが、毎回、驚かされるんだよ。全然覚えてないんだな。
寝る前は、今日あの夢みるかもなあ、喧嘩したからなあ。とか思うんだけど、
寝てしまえばもうだめだよ(笑)。
む:そうなんだ。・・・お酒ばっかり飲んで、寝てるからよ。
お:(苦笑)。まあ、そうかもな。
・・・でも、こうやって、お前とバーで飲むだなんて、なんていうか、
不思議な気分だな。
む:ふふ。うれしいでしょ?わたしと、外でお酒が飲めるなんて。
お:ふ(笑)。
se:氷の音。
む:マスター。おかわり下さい。
お:おい、飲みすぎるなよ。
む:いや、パパに言われたくないわよ。
最近気付いたんだ。けっこう飲める人なんだって。わたしは。
お:そうなのか。
む:うん。お酒、嫌いって思ってたから飲んでなかったけど、ちょこちょこ飲む様に
なったら、わかったの。飲んでも、あんまり酔わないもん。
お:そうなのか。
・・・・。お前、どうなんだ?彼氏とか、いるのか?
む:え、なに急に。・・・いないわよ。
お:酒がどうのとか、言ってるからさ。男とでも、飲んでるのかと思ってさ。
まあいいよ。まだ若いんだし。しっかり選んだ方がいい。
・・・男は色々だからな。
む:・・・男は、色々ねえ。
お:なんだよ、意味ありげなリアクションだな。
む:そんなこと、ないわよ。
『女だって色々よ』って、思っただけ。
お:随分、大人なこと、いうじゃない。
む:ま、私もそれなりに色々と経験をしていますから。
知りたくないようなこと、知ってしまったりしながら、それなりに大人になってんです。
わたしも。
お:知りたくないようなことを知ってしまったり。か。
・・・・色々あったんだな。お前も。
se:ジャズを聴き入る二人。
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シーン3:馴れ初め
お:マスター、もう一杯。
マ:かしこまりました。
む:そういえば、お母さんと、お父さんって、どっちから、先に付き合おうって言ったの?
お:な、なんだよ、急に。
む:その辺の話、詳しく聞いたこと。無かったなって思って。
お:いいよ、その辺の話は。
む:テニスのサークルで出会ったんでしょ?それは知ってるの。
確かサークルの名前は、『川内テニスサークル』っていうんでしょ?
マ:どうぞ。
se:グラスを置く音。
へー、川内テニスサークルねえ(笑)。
お:ほら、マスター、食いついてきちゃったじゃないかよ。
お前、そういうのなんでちゃんと憶えてるんだよ。
む:え、だって、あのテニスコートってそんな昔からあるんだって、思ったから。
お:そんな年寄り扱いするなよ。ほんのちょっと前の話だろ、ぼくとお母さんがテニスしてた
ころの話なんて。
マ:そうですよ、お父さん、まだまだ若いんですから。
む:あ、そうですね、ごめんなさい。
そのサークルで初めて会ったの?お母さんと。
マ:ああ。そうだよ。
む:どっちからアプローチしたのよ?
お:どっちだと、思う?
む:・・・・お父さんから、かな?
お:(笑)。何でそう思うんだよ。
む:なんとなく。お父さんの方が、先に好きになったんじゃないかって。
お:・・・まあ、そうだな。
・・・、というか。こっちがぞっこんだったな。
む:へー、そうなの(笑)。ぞっこんだったの。
お:ああ。そうだ。
・・・・お母さん。かわいくてなあ。
一目、見たときから、惚れてしまったよ。
まあ、一目ぼれってやつだよ。
む:そうだったんだ。
お:そうだよ。
む:じゃあ、告白も、お父さんから?
お:ああ。そうだよ。
でも、お母さん、なかなか、こっちが好きなんだって思ってる
こと、気付いてくれなくてなあ。
む:え、そうなの?
お:ああ。出張先で、電車待ってる間に電話したり、映画の話をして、
それとなく、映画に誘ってみたりしても、さ。
む:うん。
お:こっちが好意を持ってるってこと、全然 気付かないんだよ。
む:全然、気づかないんだ?でもそれって、誘い方が悪いんじゃないの?
お:誘い方の問題かな?普通、映画に誘ったりしたら、好意を持ってるって
思わないか?
む:まあ、そうねえ。少なくとも嫌いな人とは映画行かないしねえ。
お:いや、男と女で映画に行くっていったら、どうみても、さ。
ねえ、マスター。
マ:ま、まあ、そうですよねえ。男性側からすれば、そういう前提って思ってる
場合が、多いんじゃないですかね。
女性はどう、感じるかわかりませんが。
む:でもそれは、あれよ。行っちゃうわよ。
別にそんなに好きじゃなくても。普通に友達なら。
お:『別にそんなに好きじゃなくても。普通に友達なら。』行っちゃうのか。
む:あ、そういえば、言ってたわ。
いま、思い出した。
お:なんだよ。
む:お父さんと映画にいった話。
お:お、そうか。なんていってた?
む:『そんなに好きじゃなかったけど、まあ、別にいいかって思って、
行った。』って言ってた。
お:『そんなに好きじゃなかったけど、まあ、別にいいかって思って、
行った。』か。
・・・・・。はは。ははははっははは。(寂しさを含んだ笑い)
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シーン4:死との対峙
お:じゃあ、
あの世で、その事、よく、確認しないと、な。
『ホントに、おれのこと、そんなに、好きじゃなかったのか?』って。
葵(あおい)から聞いたぞ、って。
む:そう、ね。
でも、わたしが、聞いて、みて、いいかな?
お:な、何を、言ってるんだ。
む:・・・・・わたし、もう、お母さんのところ、行きたい。
また、お母さんと、話、したいんだ。(泣きながら)
お:お前は、まだ早い。
・・・・いま行っても、お母さんとは会えないぞ、きっと。
む:(ぐすっぐすっ)
お:親より先に死んだら、賽の河原で、ずっと石を積まされるん
だぞ。知らないのか?
どんなに石を積んでも、鬼に崩されるんだよ。
積んでも積んでも、結局、鬼に、がらがらと崩されてしまう。
・・・・そんなところへ、お母さんは、来ない。
む:(咳き込む)
お:あいつは、人の為に死んだんだ。津波にのみ込まれそうになってる
人を助けて、その人の身代わりになって、死んだんだ。
・・・・だから、あいつは、天国に、いるんだ。
む:(泣いている。)
お:・・・最近、あいつの夢を見るん、だ。
酒を飲まなくなってから、はっきりと、夢を覚えてる様になってさ。
あんまり覚えてるもんだから、ちょっと、辛くてな。
また、ここで、飲もうかなって。
思ってさ。
む:・・・・、そうだったんだ。
みんな、言ってたわよ。
お父さん、もっと、休んでいいのに、って。
奥さん亡くされたんだから、って。
・・・わたしも、同じこと、言われたけど。
・・・休んでいいんだぞって。
お:働いてた方が、いいよ。
家にずっといたら、あいつのこと、考えてしまう。
む:そう、ね。
se:ジャズを聴く二人。
お:マスター、じゃあ、おあいそします。
マ:ありがとうございます。
se:お金のやり取りの音
マ:なんといったらいいかわかりませんが、
・・・・生きて、いきましょう。
・・・・奥様も、そう、お望みだと、思います。
お:うん、ありがとう。
・・・そうなんだよ、毎晩毎晩、夢に出てきてさ。
生きて、生きてってうるさくてさ、あいつ。
そんなに死にそうかね、ぼくは(笑)。
む:死にそう、だったわよ。
目が。どこ見てるかわからなかったもん。
お:最近目が、調子悪いんだよ、コンタクト合わないのかな。
・・・、じゃあ、マスター。
また、来ます。
む:わたしも、また、来ちゃいます。
マ:ええ。お二人揃って、また、是非、いらしてください。
お待ちしております。
se:足音、ドアの音。
雑踏の音。
-fin-
この記事へのコメント
沖野周平
さとぷさん、綾瀬さん、元気にしているかなあ。