11/11(火)新作オンエアします!!

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11月11日17:00放送分

『小さな池、小さな森(前編)』

局へ送信完了

宮城県仙台市泉区を中心にfmいずみ79,7Mhzで放送
そのほかの地域の方(全世界の皆様w)でPCインターネット
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「ListenRadio(リスラジ)」にて
全国の放送局→東北→fmいずみ
を選択でお聴きいただけますので
よろしくお願いします



メンバー募集はまずはこちらご覧ください

『仙台魔法の泉放送劇団募集要項』

https://ameblo.jp/magicizumi/entry-12832089199.html





皆様、いかがお過ごしでしょうか。
来週の火曜11月11日 夕方五時から、新作を
オンエアします。


私の場合 シナリオの着想の瞬間は、色々あるのですが。

場所もシュチュエーションも様々です。

でも(車を運転中)っていうのは、比較的多く、

この作品もそうでした。

金を得る場(いわゆる会社)にいらっしゃる、

小森という人の名字がふっと帰途の途中に頭に

浮かび、(自由に名字を設定できる法律が施行されて

いる未来で、仮に『小森』と名字をつける人が居たとしたら

それはどんな展開になるだろうか。)

と思ったことがきっかけでした。

自分は、父が原始人みたいな生活をしていた(笑)人間

なんで、幼い頃、山や森に結構連れていかれました。

ので、自然を憧憬として捉えている側面がありふっと

それが作品に反映されることがあります。

本作はシナリオを下記に載せようと思いますので

良かったら読んでやってください。前編後編の二週

でのオンエアとなります。



出演)

・男:柿崎真也

・女:白山美憂

・散髪屋の主人:綾瀬武

・姉:葉月琴音

・父:沖野周平

======



『 小さな森、小さな池 』 沖野周平
1)
「しかし佐藤さん、あなた本当に名字を変えないんですか」
そう、散髪屋さんの主人が、僕に話しかけて来た。
鏡に写る互いの顔を見ながら話をするという事は、当人同士が目と目を合わせて話
をしているのに、何か(フェイス・トゥ・フェイス)とは少し違う感覚がある。
それがご主人と話す内容にどう作用しているのか、までは自分にはわからないが。

『だって、特段不便は感じてないですからね、佐藤って名字に』そう鏡の主人
に僕は言う。
「何処かの学者が言ってました。今、ありふれた名字の人たちが雪崩を打って
名字を希少なものとか、こう変えたかったっていうものに変えてってるんですけど、
鈴木さんとか高橋さんとかそういう多くいる名字の方でも、頑なに変えないって人も
いるんだって事を」
その話を聞いても僕は特に、その内容には興味を持てなかった。
多分それは、僕はそんな理由で名字を変えないって訳じゃ無いからだと思う。
短足さん、天使さん、珈琲さん、脚立さん。5年前に施工された所謂(名字変更法)で、
この国にはあらゆる新しい名字が生まれた。おそらく、短足さんは足が短い事を敢えて
克服しようとして名字にした?のかな、・・・天使さんは天使に憧れていたんだろう。
「脚立さん」ってなんでそんな名字にしたんだろう?わからない。

新しい名字には、どんな意味合いを持たせてもいいし、逆に持たせなくてもいい。
漢字を使うという事と、使用出来ない漢字が存在するという制限以外は
基本的に自由、というのがこの法律の特徴だった。
『自分は特に深い理由はないですよ。佐藤という名字の歴史とか由来とかそういう
ものへの思いが別にゼロって訳じゃないけど、溢れてる訳でもない。中にはそういう
のに配慮される佐藤さんもいるんでしょうけどね。』
鏡に映る主人が頷きつつ、僕の髪を人差し指と中指で器用にはさみながら、鋤ばさみを
入れている様子が見える。
「名字が持っている本来の意味が薄れてきたところに、やれ夫婦別姓だ、
改姓を昔の武士みたいに節目節目でやりたいだ、なんてそんな声がマスコミを賑わす
ようになって。丁度そんなタイミングでしたからね、この名字変更法が出来たのって」
主人がそう言い、鼻からスン、と空気を取り込む。この人の癖だ。
『名字が持ってる本来の意味って、何でしたっけ?』と僕は主人に話かける。
主人は手を止め、少し考えてから「何でしたっけね?」と言って、笑った。

政治家がすることに、膝を打つ瞬間が来るとは、とふと僕は、その時の事を思い出した。
この名字変更法が審議入りしたというニュースを聞いた時に、僕はそんな風に思った
のだ。(失策を繰り返すのが政治家のデフォルト)という印象しかなかったが、
(政治家の中には一部まともな人間もいるのかもな)とこの件以降、思うよう
になった。

「実はわたし、名字変えることにしたんです。」そう、鏡越しに主人は笑みを
浮かべなから言った。白髪の長髪を後ろで束ねたその髪を触りながら、恥ずかしそう
にしている。
『え…、あれ?そうなんですか。』僕は驚く。
『やっぱり、ご主人も佐藤ってありふれた名字が嫌になっちゃった感じですか?』
実はこのご主人も、同じ佐藤という名字なのだ。
「あ、いえ。あ、まあちょっとだけそれはあるかな。ありますが、大きい理由は
もっと別です。」
ご主人は何だか得意げとも、含みがある表情ともとれるあまり見たことが無い表情を
している。
「あ、も、もしよろしければというか支障がなければ、ご主人の新しい、み、
名字を教えてもらっても、いいですか。」と僕が恐る恐る口にすると、実は
言いたくてしかたなかったのか、間髪を入れずに、
「散髪、です。」と満面の笑みで、ご主人は答えた。
それは、言いたくて言いたくて仕方が無かったのかな、と思わせる間(ま)だった。

2)
改姓する人々の傾向、どういう趣旨で改姓するのか、というデータが
インターネットを中心に出回っていた。
その記事によると、
①志(こころざし)とか(やり遂げたいこと)を名字にするパターン。
例:平和・自立・自尊 など
②好きなものや事を名字にするパターン。
例:車、柴犬、可眼羅(カメラ)など
③目標(仕事・私事どちらでも)を名字にするパターン。志よりもより
現実的なもの、というイメージのもの。
例:円満、出世、等
④入籍の形を取らない事実婚の二人が、事実上の結婚の様な形で同じ名字に
するパターン。(多種に渡るので、凡例なし)
⑤数十年前に問題になった所謂キラキラネームの名字版。
例:西乃三条大宮(にしのさんじょうおおみや)、
僕王子意家面(ぼくおおじいけめん)など
⑥その他
上記のどのパターンにも属さないもの

とあった。
僕は自分の改姓のことよりもまず、とある人物のことが気になった。
僕の姉だ。僕の姉がどうやら改姓するつもりがあるらしい。
そのことを知ったのは、半年前くらいのことだった。
「あのさ、お父さんからもらった土地、あるでしょう?そこに私、住みたい
と思っててさ。」
そんなことを言ってきたのだ。
親父は古い考えを持っている人だった。僕より3年前に生まれた長女
より、次に生まれた長男の僕に、山奥の土地を譲渡すると言い出した。
6年前くらいの話だ。
『なんでこんな広い土地、持ってるんだっけ?』資産家でも先祖代々の名家でも無い
ただのサラリーマンの父に、僕は聞いた。
「遠い親戚の知り合いの息子さんが急に大きな大会、高校の何かの部活の大きな大会
に出なきゃいけないってんで、まとまった金が必要になったって言っててさ。
たまたまそんくらいの金を持ってたから、買ったんだ。」
『遠い親戚の知り、合い、か。』と言って僕は苦笑した。
父は八方美人なところがあったがここまでだとは思わなかった。
遠い親戚の知り合いとはかなり遠い存在だ。言ってみれば他人そのものではないか。
「なんかただ、広いだけじゃなくて、小さいけどさ、池なんかもあって、おもしろそうだ
って思ったからさ。」
そう、父は言っていたが、その土地で何かキャンプをしたりツリーハウスを
作ったりなど、そんな(大人の子供心の発揮)みたいなことは一切せずに、
ほぼほぼ何も手を着けずに鬱蒼とした藪のような状態になっていたその土地を。
僕は結局、譲り受けた。
自分の死期を知っていたのだろうか。父は僕にこの土地を譲った3ヶ月後、
あっさりと膵臓がんで亡くなった。
「あの土地、勿体ないじゃん?折角お父さんからもらったんだから、なんか
活用しないと。」そう、姉は言ってわたしを見た。
『まあ勿体ないけど、あんまりアウトドア好きじゃないしな、自分』
僕がそう言うと、自慢気に姉は一冊の文庫を僕に手渡してきた。受け取るつもりが
ない人に無理矢理ものを渡す行為そのもので。
自分の手を左手でぐいと掴んで、掌にその文庫本を被せる。そして右手を掴んで
その文庫本を握らせた。
〔森の生活〕という名前のその文庫本には葉脈が毛細血管のように行き渡った一枚
の葉が、美しく表紙に描かれている。

「わたしこの本読んでから、感激して。こんな生活してみたいって思ってずっと
どうしたらいいか計画してたの。アウトドア、とかじゃないの。自然の中で、
暮らすのよ。自然の中で自然の恵みをいただいて生きることで、人間本来の
あり方が見出されるって本なの。あなたにも読んでほしいから、あげる。
絶対読んでね。」
昔から姉は、本の影響を受ける傾向があった。まあそれは悪いことじゃないが、
いささか急だったり準備不足であったりする場合がある。
今回もそんな予感が、ありありと感じられた。

このやりとりの後、姉は活発に動き始めた。
近接している道路とこの土地の間には幅 数十㎝の水の無い、小川だったくぼみが
あり車では土地に入れない。そこに厚めの敷き鉄板を置いて橋の様にする為の工事を
すると言いだし、知り合いの工務店に見積もりをしたり役場にその登録をするから、
関係書類を一式全部貸してくれないか、などと言い始めた。

姉にそこまで影響を与え、行動させるこの本が気になり、自分も読んでみる
ことにした。
作者のアメリカ人、ソローが自然の中で生活したいという動機の一つには、
仕事に集中して取り組みたいという事があったようだ。
自分にとって本当に必要なものを知り、そのものだけを所有してそれを大事にし、
必要な時間だけ一生懸命に働く。それを実際にやっていくと、
働く時間などそれほど必要ないし、自分の時間を自分のやりたいことに使える。
そんな内容が書かれていた。
(・・・まあ現代で言えばミニマリストみたいなもん、なのかな。)
姉からもらった本を斜め読みをしながら 僕はそう思った。

3)
「わたし、佐藤くんと同じ名字にしたいの。」
彼女はそんな重々しい事を臆面もなく、不意に珈琲を一口飲み終えた後、僕に言った。
「結局名字、どうするの?変えるつもりある?」
こちらが何も言わないでいると、次の質問をしてくる。
「珈琲もう少し飲む?おかわりする?」
僕が何も答えないでいると、彼女はどこまで話し掛けてくるのかなと少し思った。
カフェの前の歩行者天国には大勢の人が思い思いの服装をしながら
歩いている。これだけの人がいて、これだけ様々な服装をして、
名字が一緒の人はどれだけいるのだろう、と僕は、脈絡のない事を思った。

『名字は変えなくちゃいけないって訳じゃないからね。佐藤って名字が嫌で
嫌でしょうがないって訳じゃないし。』
そう言って僕は彼女を見る。
『大昔、ってそれこそ平安時代とかそういう時代は、氏姓制度って言ってさ。
氏と姓(うじとかばね)で名字的なものが構成されてて、氏は血縁集団、
物部氏とか蘇我氏とか習ったじゃん学校で。
そんで、姓ってのが、役職とか階級だったんだって。
これは朝臣(あそん)とか宿禰(すくね)とか連(むらじ)とか。
だから藤原の朝臣 道長 ってのが有名なあの、藤原道長の正式な名前なの。』
「そう、なんだ。」彼女が興味が無いときの表情、言い方 そのものだ。
『で、都に藤原さんが多くなってしまったから地方に異動したらしいんだけど、
伊勢の藤原さんは伊藤、みたいな感じで名字を変えて、十六藤って言われる
藤がつく名字が生まれてさ。その中の一つが佐藤、なんだって。』
「え、じゃあ、佐藤くんの先祖は藤原氏、なの?」
持っていたコーヒーカップの珈琲がこぼれる程驚いて、彼女は僕に
聞いた。
『これがまた笑っちゃうんだけどさ。明治時代に庶民にも名字を公として
名乗るってなったんだって。それまでは武士とか有力商人とかしか
名字は名乗れなかったらしいからさ。で、その時に明治政府が庶民に対して
名字の事例として(佐藤)を示したらしいんだ。それでそれを見てそのまま
佐藤にした家も結構いたらしいんだけど、さ。・・・うち、それなんだって』
「咳払い)なんだ、そうなの。」
こぼした珈琲をハンカチで拭きながら、こちらを見ずに彼女は冷たく、そう言った。
『そうなのよ。うちの佐藤の由来はそんなもんなのよ。・・だからまあ、
名字、変えてもいいかあって思っては、いる。』
僕は冷めた珈琲をすすりながら、そう彼女に言った。
「一緒の名字にするとしたら、何がいい?」
また同じことを彼女が言った。
『角井(かくい)って名字、そんなに変えたいの?』
と僕が言うと、彼女はこれ以上ないくらいの深いしわを眉間に寄せて言った。
「元々、すみいって呼び名だったのに、本家から分家したから、とかいう理由って(笑)。
そんな理由って嫌よ。分家したからかくいとか。
今まで生きてきて何回すみいさんって言われたか、
その度にかくいですっていうと、え?かくい?だの、か、?かくい?!なにそれ?
だの、いちいちリアクションされるのもめんどいし。」
めんどいし、という言葉を話しながら、彼女はこちらにわからないように
チラッと僕の表情を盗み見た。

カフェの音楽、周りの人の話し声なんかが何かで集音したかの様に
ぼくの耳に、不思議な程、大きく聞こえる。なぜだろうか。

「・・・だめ、なんだ。名字、一緒にしたかなったなあ、佐藤くんと。」
そう言いながら彼女はカフェのメニューを手に取った。特に見たいわけじゃない
ということがありありとわかる。彼女の気持ちがその見たいわけじゃない
メニューを、手に取らせているのだろう。
「・・・私たち、別れることになる?」
メニューに目を落として、彼女はそう、言った。
『意味がわからないんだ。』
「え?」
『君と一緒に生活していくことの意味、みたいなものが。今、僕は君のことが
好きだよ。でも名字をあわせるってことは、好きな君のことを
ゆっくりと、次第次第に嫌いになっていくって事がはっきりしているのに、
君と名字を同じにして、君と同じ屋根の下で生きていく。その事を選択する
意味が、僕には、わからないんだ。』
この言葉を僕が発すると、僕と彼女の間に、大きくて見えない、しかし確固たる
異物が差し挟まったような。物理的な接触感覚を伴わない、関係を隔てるものが
明確に存在感を示した気がした。
「・・まさか今日が、佐藤くんとのお別れの日になるなんて、思わなかった。」
そう彼女は言い、一瞬僕と目が合うと、反射的に目を逸らした。
結局政治家のやることなんて、ろくなもんじゃないな、と、
半分自棄(やけ)に、半分自分でもよくわからない感情になりながら。
僕はまた、冷めた珈琲を、啜った。

4)
結局、佐藤という名字を、僕は変えないのかもしれない、と思い始めていた。
そんなある日、僕は部屋に張ったホワイトボードの言葉に目をとめていた。

このホワイトボードは狭い部屋でも使えるように、壁に貼るタイプの
もので、僕はこれを部屋の壁に貼ってから定期的にTODOリスト的
に使っている。縦長のこのホワイトボードの下の方にずっと以前から
書き残してある、書いたことを忘れていた言葉をふと僕は目にとめた。

《焚き火をする》
と、そこには、書かれていた。

5)
『いつの間にこんなログハウス作ったんだ。』
あまりの完成度に僕は驚いた。
そのログハウスは自生した欅の下の傾斜面に一部、大きな木の土台を作ってそこを
平坦地にして、その上に存在していた。
欅は街中の街路樹のようなすらっと上空へと伸びているようなものではなく、
枝を方々に広げていて、上空からこの欅の姿を見たら、(丸い緑)に見える
だろうなと思う、そんな形をしていて、それがなにか自然の自然たる由縁みたいな
そんな気持ちにさせられる素晴らしさを、一目見ただけで感じさせてくれた。
その欅の枝葉からこぼれる木漏れ日を浴びる姉のログハウスは、
驚くほど素敵だ。青緑色の壁に鮮やかな白の窓枠が窓を縁取っている。
窓は二階と思われる位置に横長に大きく設えてあり、おそらくロフトがあるのだろう、
と素人の僕にも思わせた。
一階の中央部に白い玄関扉があり、その両サイドにも大ぶりの窓があって、
(これはかなり陽が入るだろうな、気持ちよさそうだ)と思った。
「こんなこと、流石に私は出来ない。彼にやってもらったの。」
姉が話しに出していた知り合いの工務店というのは、彼氏の会社ということ
らしかった。
「わたし、ここに8割、元々住んでたアパート2割。って感じで住んで、
最終的にはここにずっと居れるように色々調整していくの。素敵でしょ?
この陽だまり。そもそもこのタイニーハウスが私、かなり気に入ったわ」
姉はこぼれんばかりの笑顔を僕に向けて言った。
『確かに素敵だけど、さ。熊とかイノシシとか、そういう野生動物対策とか、
トイレ問題とか、色々対策しない事には、』
「そんなの大丈夫よ。わたし一人でここにいるわけじゃないし、
トイレはトイレで別に作るつもり。キャンピングトレーラーを買って、
一旦そこをトイレ代わりにするつもりよ。まずは準備が整ってから、
なんて言っていると、全然進まないから、まずは住んでみてどうなるか
って感じでやってみるわ。」
いわゆるタイニーハウスと言われるような小さいそのログハウスには
部屋の角に趣のある暖炉があり、暖炉の向かいには小さいキッチン、
その隣りには小さな本棚と作り付けのテーブルが一体になった書斎スペース。
手製と思われるしっかりした作りのはしごをのぼると寝室であるロフトスペースが
あって、そこから眼前に広がる森と小さな池がその大きな窓から眺められるという
構成になっていた。
『いやあ、いいね。いい家だ。』
と僕は羨ましくなって、思わず言葉が出た。
「・・・わたし、名字を小森にするわ。」
ふいに姉が言った。
「小さい森に住むから、小森。シンプルっていうかなんというか
工夫なしでちょっとイマイチって思われるかもしれないけど、でも、
名字を変えられるって法律が出来てやけに凝った漢字使ったり、
やたら大げさな名字も増えているって聞いたから。わたしはシンプルに、
小森 って名字にすることにしたの。」
聞いていいのかな と思いつつ姉弟なんだからそのくらい聞いていいだろう
と思い、僕は聞いてみる。
『その工務店の社長の彼は、どうするの、名字?』
すると、姉は言った。
「この土地の隣の山をまるごと買って、そこに彼が住むタイニーハウスを
建てるんだって。それで、彼は名字を(大森)にするって(笑)言ってる。」
同じ名字にする訳じゃないんだ、と言って思わず僕も笑った。
「そんな、名字を同じにする事に、もはや意味が無くなっているじゃない?
今じゃあ。だから、思想とかやりたいことは同じだけど、名字は微妙に違うって
パートナーが居たっていいのよ。」
そう、姉に言われて僕は妙に関心した。得心を得たと言ってもいいかもしれない。
やりたい事は同じだけど、名字は微妙に違うパートナー、か。
姉からもらった 森の生活 が今自分のバッグに入っている事を思い出し、
彼女の仲人は(ソロー)
みたいなものだな、と思った。

6)
焚き火をしているところに、僕は角井雪乃(かどいゆきの)を呼んだ。

皮手袋をはめた手で、トングを握り薪の位置を直し、火吹き棒で
息を吹きかけて火の勢いを増す。

大きめの石を集めて作った簡単な焚き火炉みたいなものに、
薪割りをしておいた薪をくべ、それを燃やす。
火が安定的に燃え、やがてそれは炎となり、ぱちっ!ぱちちっっ!という
音を伴いながら、僕に(薪が燃えている)という状態をはっきりと目の前で
炎として見せてくれ、ぱちぱちと、音としても聴かせてくれる。

『理由はわからないけど、ずっと焚き火をしたいって思っててね。』

そう僕は、彼女に言った。
辺りはもう暗いが、姉のタイニーハウスから漏れてくる灯りがあり、
真っ暗という訳ではない。数メートル先には池の水があって、時折
パチャン、パチャンと魚が跳ねる音のようなものが聞こえた。
「あのログハウスは?あなたの?」
彼女は僕が用意したアウトドアチェアに座り、聞いた。
僕は姉のものであること、今日は自宅に戻っているので不在であることを
彼女に伝えた。
その会話が終わると、沈黙が訪れた。
秋の夜長の虫の音といえど、沈黙を紛らわすほどの効果はなく
僕はひたすら焚き火の炎の動きを、じっと見つめていた。
彼女も同じように、炎をじっと見ていて、その様子はこちらが
話すのを、じっと我慢しながら待っているように、思えた。

ふいに僕は飲み物や食べ物を出すのを忘れていたことを思い出し、
『あ、ごめん』と僕は言った。
「なにが?」
『食べ物を、あと飲み物を出すのを、忘れてた』
そう言って僕はタイニーハウスのキッチンから、あらかじめ
暖めるだけにしておいた大ぶりの粗挽きソーセージを載せた
フライパンを焚き火の上の焼き網の上に載せ、
にんじんを多めにしたキャベツの酢漬けや辛みを入れたポテトサラダを
皿に盛った。
「これ、あなたが作ったの?」
『そうだよ、この位は誰だって出来るよ。後でスープとかも
出すから。料理やり始めたばっかりだから、ちょっと味がイマイチかも
しれないけど。』
お酒は、飲むなら代行呼んであげるからと言ったものの、
彼女はすぐに首を横に振ったので、僕はじゃあ、珈琲?紅茶?と聞くと、
「緑茶があれば。なければ紅茶でいい。」と彼女は言った。

「何を話したくて、わたしを呼んだの?」
粗挽きソーセージを食べて一息ついた彼女は、僕に聞いた。
『ああ、うん。』
僕は気持ちを落ち着かせようと思って、焚き火の炎を見た。
その炎は暗闇の中で、燃え、ぱちぱちと音をたてている。
『あのカフェで一緒に暮らすっていうことは、ゆっくりと君を嫌いになる事だって
この間、言ったけど。それを言っている時からわかってはいたんだ。
正確には嫌いっていうことではなくて、好きの形が変わっていくってことなんだって。』
僕は、僕のこの言葉を聞いた彼女の反応が怖くて、彼女の方が見れなかった。
煮え切らない僕のこんな態度や言葉に、彼女が急に怒りだしてもおかしくない
と思ったからだ。
『その好きの形が変わることの意味が、僕にはわからなかった。
火の、炎の、この焚き火をただひたすら、じっと見ていてなんとなく、
愛について、愛の形について、こんな風にゆらゆら、ゆらめいて
大きくなったり小さくなったりするのかな、なんて思ったら、
前に思ってた、好きの形って、一度その形になったらもうその形のままずっと
なのかも、って思ってたことが、間違いだったんじゃないか、ってふと、
思って。』
se:ぱちぱち音を強めに入れる。
「それで、わたしと結婚してもいい、って思ったってこと?」
『まあ、そう、・・・なるね。』

雪乃の笑い声)
「相変わらず勝手よね、あなたって。わたしあなたにフラれたからもう、
婚活して別の相手見つけちゃったじゃない。・・遅いのよ、連絡してくるのが。
遅いのよ、・・・・気づくのが。」
そう、彼女は言い、立ち上がって静かにゆっくりと、池の方へと歩を進めた。
「相手の人、最高なのよ。学歴も、年収も、容姿も。滋賀出身の人でね。
地元の名士っていわれるようなお父様がいらっしゃる家が実家なの。
その人が良いだけじゃないの、もう。家柄からずっと名家なのよ。
まあ、それが、なんていうか、・・・言ってみれば完璧過ぎるのが、
わたしにとって、ちょっと重荷なことくらいが、わたしにとってのマイナス。
あなたの家みたいに、明治政府が凡例で佐藤って書いたから佐藤にした、みたいな
家柄じゃないの。」
そう言われて、僕は返す言葉がなかった。

「あなたは仕事がものを書くことだから、収入も不安定だし、一緒に生活する場合も
あなたに合わせないといけないことも多いはずだし、冷静に考えたらふってもらって
よかったくらいなの。」
言葉が出ず、僕は咳払いをするので、精一杯だった。

「・・・名字、どうしようかな。」
彼女がそう、独り言のように言った。

「この池、素敵だから、わたし小池にしようかな。」
7)
「しかし佐藤さん、あなたまだ、名字を変えないんですか」
そう、散髪屋さんの主人が、僕に話しかけて来た。
鏡に写る互いの顔を見ながら話をするという事は、当人同士が目と目を合わせて
話をしているのに、何か(フェイス・トゥ・フェイス)とは少し違う感覚がある。
それがご主人と話す内容にどう作用しているのか、までは自分にはわからない。

『あ、いや、変えましたよ、僕。名字』そう、鏡に写る主人に向かって、僕は言う。
「え!!そ、そうなんですか。」目を丸くするとはこの事だな、という顔をして
いる主人の顔が鏡越しに見える。思わずこちらも笑ってしまった。
「えっと、ち、なみ、に。どんな名字にしたのか、教えてもらえます?
まあ教えてくれないっていっても教えてくれるまで、聞くんですけど(笑)」
主人の屈託の無い笑顔にそう言われ、教えない訳にはいかないなと、僕は思う。

『自分、焚火(たきび)って名字にしようとしたんですけど、パートナーに
猛烈に反対されまして(苦笑)。で、一緒の名字にしようっていう風にも
強く言われましたんで・・・。』

シャキシャキと動いていた鋤ばさみは、全く動かず、主人は全身の動きを止めて
髪を切る行為を止め、直接僕の顔をのぞき込んで、聞いてきた。

「で、なんて名字に、されたんです?」
僕は、主人と目を合わせて答えた。

『小池です。』

ーFinー

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